2020.3.14 判例紹介
【判例紹介】婚姻費用の支払義務
先日、婚姻費用について、最高裁判所が今後の実務の参考になる判断をしました。判例の紹介に入る前に、まず、婚姻費用とは、いわゆる生活費を意味します。
婚姻関係が継続している間は、別居中であっても他方配偶者や子どもに対しての扶養義務があるので、お子さんを監護している親や収入の低い配偶者に対して、生活費を支払う義務が生じます。離婚後は、元配偶者に対する扶養義務がなくなるため、子どもに対する扶養義務のみが残り、それを養育費と言います。
もっとも、法律上、婚姻費用を請求できる権利は、抽象的な権利であると言われています。そのため、当事者間で具体的な金額の合意又は、裁判所での審判がない限り、婚姻費用を支払っていないとしても直ちに不履行になるものではないことには注意が必要です。
そして、他方配偶者が婚姻費用を支払わない場合、婚姻費用の支払いを請求する方法として、婚姻費用の分担の調停(審判)を申し立てることがあります。この調停は、離婚調停とは別の事件として扱われますので、離婚を求めながら婚姻費用の支払を求める場合、2つの調停を申し立てる必要があります。
以上を前提に本題に戻ります。本件は、妻から離婚を求め、また、同時に婚姻費用の支払いを求めていました。
協議の結果、当事者間の離婚が成立しましたが、本件では、それまでの間に支払われていなかった婚姻費用について、離婚が成立したとしても支払義務が残るのかが問題となりました。上述のように、離婚が成立すれば、婚姻費用の支払義務はなくなるため、一方配偶者の婚姻費用分担請求権も消滅するのではないかという問題が生じるためです。
この問題に対して、最高裁令和2年1月23日決定は、以下のとおり示しました。
民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は,夫婦の協議のほか,家事事件手続法別表第2の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により,その具体的な分担額が形成決定されるものである(最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。また,同条は,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており,婚姻費用の分担は,当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから,婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には,離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかである。しかし,上記の場合に,婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず,家庭裁判所は,過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(前掲最高裁昭和40年6月30日大法廷決定参照),夫婦の資産,収入その他一切の事情を考慮して,離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは,当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても,異なるものではない。したがって,婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても,これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない。
裁判所は、結論として、離婚が成立したとしても、婚姻費用分担請求権は消滅しないと判断しました。
離婚を考えている方の中には、経済的に離婚ができないとおっしゃる方がいます。もちろん、離婚をすれば、一般論として、これまで夫婦二人でやってきたことを一人で行わなければならず、一人にかかる経済的な負担は大きくなるため、経済的に離婚が難しい場合があることは否定しません。
しかし、今回ご紹介した判例のように、たとえ離婚したとしても、婚姻費用を請求することができる権利がある場合があることは、ご参考にしていただければと思います。