相続は、被相続人の財産、思いを継承することです。しかし、遺族の争いに発展し、家族関係の破綻にもつながりうる難題でもあります。そして、これは、財産の多い少ないにかかわらず、誰もが直面しうる問題です。
そこで、法的な効力を持つ遺言書の作成が、遺族の争いを避ける上で非常に役に立ちます。遺言書により自分の意思を明らかにしておくことは、身内に余計な争いをさせないための配慮として必要なものと言えます。
内容について
遺言書は、財産の分け方について法的な効力を持ちます。しかし、書いたこと全てに法的効果が生じるわけではなく、次の3つに集約されます。
- 相続に関すること…推定相続人の廃除、相続分の指定等
- 身分に関すること…未成年後見人の指定、子の認知等
- 財産処分に関すること…遺贈や寄付行為、信託の設定等
そして、遺言書があっても、最低相続分(遺留分)が民法により守られることに留意が必要です。
遺留分制度とは、相続人に対して最低限の財産を残すように定めている制度の事を言います。民法1042条によれば、遺留分は、配偶者・直系卑属(被相続人の子や孫、代襲相続人を含む)、直系尊属(被相続人の親や祖父母)に限られており、被相続人の姉妹兄弟には遺留分が認められていません。
そして、遺留分の割合は、被相続人の財産の2分の1であり、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1と定められています。
仮に、遺留分の侵害があった場合、財産を多く相続した受遺者や受贈者に対して、遺留分を侵害された相続人が、遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求めて、遺留分侵害額請求を行なうことになります。
形式について
遺言書には、いくつかの種類がありますが、いずれにせよ、書面でなされることを要します。
普通方式と特別方式によるものがありますが、後者は、病気や遭難等により死が差し迫っている場合や、船や隔離施設等にいる場合等、特殊な状況下で行われるものです。なので、通常は普通方式によって作成することになります。普通方式による場合も、特別方式による場合も、書面でなされることを要します。
普通方式の遺言書は、民法967条本文により、以下の3種類が定められています。
ⅰ自筆証書遺言…遺言者が自筆で作る遺言書
メリット:証人が不要。費用も掛からず、最も簡単。
デメリット:遺言書の紛失・偽造や改ざんのおそれがある。しかし、これは、家庭裁判 所での検認や、法務局での保管制度を利用することにより防ぐことが出来る。
ⅱ公正証書遺言…遺言者が口頭で述べた内容を2人以上の証人の立ち合いの下、公証人が文書にする遺言書
メリット:法的な不備を防ぐことが出来る。
デメリット:遺言内容を公証人や証人に知られてしまう。費用が掛かる。
ⅲ秘密証書遺言…遺言者自身が作成して封印した遺言書を公証人に公証してもらう
メリット:遺言内容の秘密が保たれる。自筆の他、パソコンや代筆での作成も可能。
デメリット:手間・費用が掛かる。記載に不備があると無効になる。
※秘密証書遺言は、法改正に伴いメリットが減り、用いられることが少なくなりました。
・自筆証書の注意事項
要件
- 遺言書を自分で書くこと…パソコンや点字機等の使用は認められておらず、自筆によらなければならない
- 日付と名前を自分で書くこと…〇年〇月〇日
- 自分で押印すること…役場に提出した実印が望ましい
保管方法
偽造変造防止のため、封印した上で、以下の場所で保管することが望ましいです。
・自宅の金庫等にしまっておく
・銀行の貸金庫や信頼できる人に預けておく
・法務局に保管する