預貯金の払戻制度について
金融機関の口座は、口座名義人が亡くなった場合、その口座は凍結されてしまいます。そのため、遺産分割前の相続預金の払戻し制度が新設されるまでは、たとえ配偶者、子供であっても、遺産分割協議により相続人全員の合意を得るまでは、相続人単独では相続預金の払戻は受けることが出来ませんでした。
もっとも、口座が凍結されることにより相続人に不便や不利益がもたらされていたため、凍結された預金口座から遺産分割協議前であっても、決められた額までであれば払戻しすることが可能となる制度として、預貯金の払戻制度が創設されました。
・メリット
- 葬儀費用、相続関連費用を被相続人の預金から支払える
- 家族の生活費を確保できる
- 被相続人の未払金、債務の返済を行なうことができる
→生前の入院費の清算等
・デメリット
- 申請のために必要な書類が多い
→法定相続人確定のために必要な書類が多く、準備するのに時間がかかる
- 相続放棄ができなくなる可能性がある
→相続財産を一部でも処分すると、相続放棄が出来なくなり、「預貯金の払戻制度」により資金を受け取る事も相続財産の処分に当ります。
しかし、相続預金から払い戻した資金の使い道が、社会通念上、常識的な範囲の葬儀費用であれば、相続財産の処分に当らないと判断され、相続放棄することが出来るケースもあります。
・2つの払戻し制度
- 家庭裁判所の保全処分による払い戻し手続き
→家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合、各相続人は、家庭裁判所へ申立てて、その審判を得ることにより、相続預金の全部又は一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻を受けることが可能です。
しかし、保全処分の申立は、遺産分割の調停又は審判と共に行わなければならい事、払戻が認められるのは、生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます。葬儀費用の支払、遺族の生活費の確保等、緊急性が認められる場合が該当します。
単独で払戻ができる額=家庭裁判所が仮取得を認めた金額
- 金融機関での払戻手続き
→各相続人は、相続預金のうち、口座ごとに、家庭裁判所の判断を経ずとも、金融機関から単独で払戻を受けることが出来ます。
しかし、同一の金融機関からの払戻しの上限が150万円となります。
単独で払戻ができる額
=相続開始時の預金額×1/3×払戻を行う相続人の法定相続分
・払戻手続きに必要な書類
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本、又は全部事項証明書
- 相続人全員の戸籍謄本又は、全部事項証明書
- 預金の払戻を希望する者の印鑑証明
- 家庭裁判所の審判書謄本 (保全処分申立ての場合に限る)
相続は、人生において何度も経験するものではなく、手続きが複雑で何から手を付けてよいのか分からない場合が多いです。
そのため、いざ制度を利用したいと思った際には、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。