当事務所で取り扱う民事訴訟の案件は、多くが地方裁判所の管轄に属する事件ですが、軽微な物損事故の事案などではまれに簡易裁判所に訴えを提起することがあります。 簡易裁判所の審理には、手続の簡易化・当事者の負担軽減という趣旨から、地方裁判所と異なり、いくつかの特則が定められています。代表的なものを挙げてみましょう。
(1)準備書面の省略
地方裁判所以上の裁判所では、口頭弁論は書面で準備しなければならないとされています。つまり、裁判の期日に主張することを予定している内容については、これを記載した書面を事前に提出しなければならないということです( この書面を、準備書面と言います。)。期日の当日になって突然新しい主張が出されると、審理が混乱してしまうからです。実務では、遅くとも1週間前には準備書面を提出するよう求められます。
これに対して、簡易裁判所では、事前に準備書面を提出することは不要とさ れています。当事者の負担を軽減するためです。ただし、訴訟の相手方が準備なしには応答できない事項については、準備書面を提出するか、期日前に直接相手方に通知しなければならないとされています。
(2)第2回以降の期日での陳述擬制
陳述擬制とは、当事者が期日に出頭していなくても、事前に訴状や準備書面等を提出していれば、そこでの記載内容を期日で陳述したものとして扱われるという制度のことです(一方の当事者は期日に出頭していることが前提となります。)。
地方裁判所以上の裁判所では、第1回の口頭弁論期日に限って、この陳述擬 制が認められていますが、簡易裁判所では、第2回以降の期日でも、陳述擬制が可とされています。
(3)尋問に代わる書面の提出
訴訟では、一般に、当事者の主張や物的な証拠が提出し尽くされた後には、 和解で解決する場合を除いて、証人や当事者本人に対する尋問手続へと進んで行きます。
このとき、通常の訴訟では、証人や当事者が裁判所に出頭して裁判官の面前で自己の経験した事実を述べることになりますが、簡易裁判所では、 相当と認めるときは、通常の尋問の代わりに書面により尋問することも可とされています。
以上のほかにも、口頭での訴え提起が認められたり、司法委員の制度が設けられていたりと、紛争の簡易迅速な解決という観点から種々の特則が定められてい ます。
もっとも、私たち弁護士が代理人として活動する場合には、簡易裁判所だからと言って特に通常訴訟と異なるやり方をすることはあまりないように思います。 例えば、期日で何か主張する予定がある場合には事前に準備書面を提出しますし、第2回目以降の期日も原則として毎回出頭します。私の場合、訴状を作成せずに口頭で訴えを提起したことは一度もありませんし、今後もおそらくないでしょう。
簡易裁判所の特則は、主として訴訟の当事者が、代理人を立てずに、自ら訴訟の対応をする場合(いわゆる本人訴訟)を想定して設計された制度だからです。 訴額が比較的低額の場合には、費用の観点から、弁護士を立てずに自身で対応することを選択される方も一定数おられます。