これまで6回にわたり、過払い金についてご説明してきましたが、利息制限法の法定利率を超える利息部分の支払いは無効です。借主は払う必要のないものを払い続けていたことになります。そこで、払う必要のなかった利息分の支払いをどのように処理するのかということが問題となりました。利息制限法の利率を超えた部分について弁済中の元本に充当されるのかが激しく争われたのです。
この争いは最高裁昭和37年6月13日判決(民集16巻7号1340頁)が、元金の弁済にあてることは出来ないという解釈をしたことで、一度は決着をみました。しかし、同判決は、わずか2年後に最高裁昭和39年11月18日判決(判タ168号179頁)により判例変更されています。
昭和39年判決は、「債務者が、利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払ったときは、右制限をこえる部分は民法491条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。」と判示しました。
この昭和39年判決により、利息制限法の利率を超えた支払いについては、弁済中の元本に充当することが出来るということが確立していきました。引き直し計算とは、この昭和39年判決の考え方に基づいて、過去の取引について、利息制限法の利率を超えて支払った部分を弁済中の元本に充当しながら計算し直す方法なのです。
さらに、最高裁昭和43年11月13日判決(判タ227号99頁)は、「債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となったとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。」と判示しました。昭和39年判決を一歩進め、元本充当して完済となった後も支払われたものについての返還請求を認めたと評価されています。
こういった判例の蓄積を経て、取引履歴の開示請求をし、取得した取引履歴を引き直し計算し、過払金が出ていたら不当利得として返還を請求していくという、現在の過払金請求の方法が形作られてきたのです。